新年あけましておめでとうございます!!年末年始いかがお過ごしでしたでしょうか。さて、お正月と言えば「おせち」。おせち料理は和食文化の最たるものですね。昨年は「和食」が世界的な注目を集める年でした。それもあってか、いつもとはおせち料理の楽しみ方も一味違ったように感じたお正月でした。
そして今年の干支は「甲午(きのえうま)」。この甲午の由来、ご存知でしょうか。「甲(きのえ)」は「木の兄」ということから大樹を意味しています。そして「午」は太陽の状態を。そういえば午前・午後・正午と時間を表す言葉にも「午」という字が使われていますよね。「太陽の光を燦々と浴び、樹木が大きく育つ」、そんな年になればいいですね!
さて、新年号のテーマは有機農産物について。有機野菜、この名前を一度は耳した事があるのではないでしょうか。農作物に関心のある方ですと「有機栽培の野菜は普通の野菜とどう違うの?」、「有機栽培の方が安全で美味しいの?」などいろんな疑問を持っていらっしゃると思います。今回は農業コンサルタントのプロとして、話題の有機栽培に関し、私なりの考えを書かせてください。
さぁ「有機」、これはどのくらい知名度のある言葉なのでしょうか。まず「有機農業」、この言葉を知っていると答えた方は97%いらっしゃいます。ではその内容を正確に理解している方は?なんと全体の5%。92%の方が言葉は知っていても正確な内容の理解にはいたっていないとの事でした。
次に、買い方という視点でリサーチを見てみましょう。「家で使う野菜はほとんど全て有機農産物を選んでいる」という方は全体の0.9%。約100人に一人の割合ですね。
では、有機農産物を選んでいる方々は、どういう理由で選んでいるのでしょうか。これについては、次の2つの傾向があるようです。一つは、“健康”“安全”“美味しい”という自分に対する利益を追求するタイプ。そしてもう一つは、“理念に共鳴できる”“環境に負荷をかけていない”という社会貢献に視点をおくタイプ。日本はどちらかというと、“健康”“安全”“美味しい”などに重きを置いて有機野菜を選んでいる人が多いそうです。
それではここからが本題。よく言われる「食の安全」、これに関してですが有機栽培は一般の栽培に比べて「安全」なのでしょうか。そして他に比べて「美味しい」のでしょうか。有機栽培のキモとしてよく言われる「農薬」と「肥料」に注目し、考えてみましょう。
まずは農薬について。有機栽培では基本的に農薬の使用は禁止されています。農薬を使いませんので、残留農薬による危険性は低くなりますよね。では、一般の野菜は農薬まみれなのでしょうか。そんな事はありません。以前説明しましたが、一般の野菜にも「残留農薬基準」というものがあり、日本では特に厳しい基準ということでした。しかもGAP農場ではこれを守る為の仕組みがしっかりしていて、基準以上に農薬を減らす努力も推奨されているということでした。その一方、有機栽培でも十分な生産量確保の為、一部の農薬については使っても良いということになっています。この辺は極めて厳格、というわけではないようですね。
次に肥料についてです。有機栽培ではもちろん「有機質肥料」を使用することになっています。「有機質肥料」とは、動植物質のものを原料にして、その原料に含まれている栄養素を利用したもの、例えば「油カス」、それから、「鶏フン」「魚粉」「骨紛」「草木灰」など原料にしたもの。他にも良く知られているものだと「下肥」(排泄物)が有名ですね。この有機質肥料、本当に良いものなのでしょうか。
これについてはいろいろな見解がありますが、まずは一般論から。植物は養分を吸収する時、有機物が分解されたものを吸収します。これは私たち人間が食事を分解して体に取り入れるのと同じ理屈です。この肥料に含まれる一部の有機質はアミノ酸として吸収されるということも最近は分かってきましたが、これはごく微量です。
では有機野菜は栄養不足になってしまうのでは?もちろん、限られた食事からは栄養不足もあり得ますよね。こちらに対しては農薬の時と同様、肥料においても有機栽培では十分な生育が期待できない場合は、条件付きで一部化学肥料と同じ成分のものを使用することが認められています。
また、有機質肥料として多く使用されているものの一つは「下肥」、つまり家畜の排泄物から生まれたの堆肥です。現在農業の問題点として指摘されているのが、この堆肥を過剰に使用することにより、養分の一部が過剰に土にたまってしまうことです。これは畜産が盛んな地域にとくに見られます。つまり土が栄養過多になってしまうんですね。
一つ生々しい例を紹介しましょう。国内外で有名な例としましては「硝酸過剰」があります。硝酸過剰の牧草を食べた牛から肥料を作り、農産物を作ります。それを野菜経由で食べると「硝酸中毒症」、「発がん性」、「乳幼児にみられるというメトヘモグロビン血症」などがおきるのでは、と今まで関係性を疑われてきました。これについては賛否両論あるのが現状です。実際これらの症状との因果関係は解明されていません。一部では、この硝酸が体内でバイアグラと同じ働きをしてくれるという説もあり、年配の男性には嬉しい研究という意見もあるくらいです。
農業、食を扱うプロの視点として、植物の健全な生育の観点からも堆肥の過剰利用は好ましいとは思いません。人間でも偏った栄養摂取は良くないと思っています。これは極端な話ですが、農業大国オランダの先進的な一部の生産者達は家畜糞などの堆肥について、「そんなものは使わないよ!」とコメントしています。実際、最近流行りの植物工場や溶液栽培などは、そのような安全性も加味して液体の化学肥料のみを使って栽培しています。
硝酸塩について参考までに、日本人の硝酸摂取に関するデータを紹介しましょう。
日本での硝酸塩の摂取量は全年齢層でADI値(人間が一生のうち毎日取り続けても問題ない量)よりも高くなっています。そしてこの摂取量のほとんどが野菜からといわれています。いろいろな考え方があり難しいところですが、食生活の判断材料にしていただきたいと思います。現に、食に厳しいEUではこの硝酸塩に関して基準値を設けています。
EUにおける硝酸塩の基準値
さて、ではもっとダイレクトな話題にいってみましょう。有機野菜は「美味しい」んでしょうか?
先ほど、例に挙げた硝酸の問題から考えてみましょう。硝酸が多いと“えぐみ”が出るなど今まで言われてきました。えぐみに関してははっきりとした結論は出ていませんが、硝酸が多いとビタミンなどの量が減少し栄養価などが下がるということは分かっています。これももちろん、有機に限らず、一般の農業でも言える事です。一つ明確なことは、有機質肥料だけで養分のコントロールをするのは「難しい」という事です。自然の肥料ですから効かせたい時に効かず、効かせたくない時に効いてしまうということも多々あります。また、使える資材も限定的なので養分バランスを整える事も大変。質・量共に良くする為に、有機農産物の生産者は大変な努力をされていると思います。では、このえぐみについては?美味しくないのでしょうか?う〜ん、味について行きつくところは人の好みってところでしょうか。
一つ誤解を解かせてください。化学肥料を全肯定するわけではありませんが、化学肥料も原料は元々自然界にあったものです。
そして、化学肥料は進歩しています!味や栄養という点についても、より美味しく、栄養価を高めてくれる化学肥料というものもたくさんうまれました。環境保全の観点からも、「肥効調節型」という長くユックリ効いてくれる自然に優しい化学肥料も開発されました。
また、化学肥料が出来たおかげで、ここ数十年の急激な世界的な人口増加にも耐えうる食料生産が可能になりました。その一方、有機栽培から学ぶところも多々あります。私は農業コンサルのプロとして、文明の進化を否定することなく、温故知新の精神で農業の発展を追いかけていきたいと考えています。有機肥料と化学肥料の特徴を熟知して上手く使いこなすこと、この利点を活かす努力とバランスがこれからの農業の発展と豊かな食の生産に大事だと考えます。
新年早々、またまた熱い内容になってしまいました!今年も一年、宜しくお付き合いお願い申し上げます!
次回コラムは、GAPの内容に戻りまして、~食の安全確保~から「水について」です。