本題に入る前にニュースの話題にお付合いください。
最近よくテレビや新聞などで「TPP」という言葉をみかけるようになりましたね。このTPP、Trans-Pacific Partnershipの略で、「環太平洋経済協定」と訳されています。
加盟する国の間であらゆる関税を撤廃することにより、より自由で円滑な取引、つまり経済の連携をしようというものです。もちろん人・情報・お金、などの行き来もどんどん加速するでしょう。もともとは2005年に一部の4か国間で交渉の検討が始まりましたが、その後、2010年の交渉拡大により、アメリカ、オーストラリアをはじめとする多くの国が加盟交渉国として、会合に加わっています。日本も今年3月に、安部総理が正式に参加表明しています。
このTPP交渉、よく言われている農業分野だけでなく、金融・医療・工業製品など様々な分野も関わることから、今後の重要な問題となっています。
海外との自由な取引により、確かに経済が活性化するでしょう。しかし、これまで守られてきたいくつかの分野に関しては犠牲になることもありえるかもしれません。例えば、日本は今まで、834品目の農林水産品について関税を撤廃したことがありません。国が大切に第一次産業を守ってきたんですね。そしてその中でも「米・麦・牛肉・豚肉・乳製品・砂糖」を重要5項目とし、今回のTPPにおいても関税撤廃の例外としようと考えています。しかし、今求められている関税自由化率90%以上になってしまうと、この重要5項目の一部についても譲歩しなければならなくなるといわれています。
そして、ここからが本題、今回の内容~ドリフト対策に見る欧米と異なる農業環境 ~を考えてみましょう。
TPP問題でも言われていますが、関税が撤廃されたらどうして「日本の農産物の立場が弱くなる」と考えられているのでしょうか。その原因の一つには、日本特有の土地柄の問題があります。
日本の国土の約7~8割が山間地です。つまり、まとまった広大な土地がありません。当然、作業も大型機械化された農場より手間がかかります。そして、作る側のコストもその分多くかかってしまいます。 それでは、海外はどうでしょうか。日本と外国の農場の規模はどの程度違うのでしょうか。
1戸あたりの農地の平均面積 です↓
・日 本:約2ヘクタール(中規模な小学校のグランド4枚分ぐらい)
・フランス:52ヘクタール
・アメリカ:169ヘクタール(東京ドーム36個分)
そして、TPP交渉国であるオーストラリアに関しては、日本のおよそ1,300倍、2,970ヘクタールもの面積です!当然、1枚当たりの畑の面積も比例して大きくなります。このことは、ただ生産効率の問題だけではありません。GAP、つまり生産工程管理の問題にも大きく影響しています。
前回説明しました”ドリフト”を思い出して頂けますでしょうか。オーストラリアの畑がこんなにも広いのなら、「隣の畑の農薬が飛んでくる」ということはリスクとして非常に少なくなりますね。見渡す限りが自分の畑となるのですから。では日本ではどうでしょう。日本では総面積が小さいだけではなく、さらに畑を小さく分割して管理しています。1枚が約10アール程度、つまり30メートル四方の畑が隣接しているのが現状です。もちろん、隣の畑の作業の影響を受けやすくなりますよね。
このように、各国で、農業環境の違いにより経営面でも、安全管理面でも大きく異なってきます。 以前、様々な国のGAPということで、ご紹介いたしましたが、そのGAPが作られた国によって、重視する管理ポイントが若干異なってきます。
これはこのような背景があるからなんですよね。私はやはりその国の農業環境にあった農場管理手法がベストだと思っています。
今回は、TPPの話題からドリフト対策に見る欧米と異なる農業環境ということで、農地の形態とリスクの違いに触れてみました。次回は、いよいよJGAPの取り組み~農薬管理においてどんな取り組みをしているの?~ということについて説明致します。お楽しみに!!